ボクが嫁さんと出会ったのは、ありきたりだけど職場でだった。

ボクの勤め先はイタリアの家具を輸入している会社で、その娘は仕入先から研修兼通訳として送られてきた。

青い目のストレートで金色の髪が背中の真ん中まである女性だった。

透き通るような白い肌で、外国人の女性にしてはソバカスなどもなく、顔の凹凸がちょっと少ない感じがしたけど、その分雰囲気が日本人ぽくって凄く綺麗な人だった。

日本語は達者で、聞いてみると日本のアニメが大好きで、小さい頃から独学で日本語の勉強を始めたらしい。

日本のアニメ製作会社で働くことを夢見て、少しお金を貯めてから何年か前に日本に渡ってきたらしいけど、そんなに都合よくアニメ製作会社が雇ってくれるわけもなく、一旦国に帰って家具屋さんに就職したという経緯があるらしい。

まだ、アニメ好きの少女と言う雰囲気を全身から漂わせていたけれど、少し慣れてきてから年齢を聞いてみると

「モウスグ二十七ニナリマス」

と言われて驚いた。

どう見ても20歳そこそこだと思っていた。年下だとばかり思っていたのに、まさかタメとは…。
彼女はボクの働く会社に2週間足らずの予定でやってきて、研修という名のもと、通訳や契約の仲立ちをしてくれた。

仕事ぶりは真面目で、日本のことにも理解を示してくれるのでとても助かった。

最初の1週間が過ぎて、宿泊先に戻る前にわざわざボクの席に挨拶に来てくれたので、

「クラウディア、週末はどうするの?」

と聞いてみたら、アキバに行くという。

「どうして、アキバなの?」

と尋ねたら、

「オタクの街だから」

と答えた。

「"オタク"なんて言葉知ってるんだね」

ボクが感心してみせると、

「ワタシがオタクだから」

と言って笑って見せた。

「今週はお世話になったから、ガイド役、勤めようか?」

と水を向けると、彼女は嬉しそうに、

「お願いします!」

としっかりした日本語で答えてくれた。

「ホテルまで迎えに行こうか?」

そう言うと、

「アキバの改札で大丈夫」

と言われ、これは本当にオタクなのかもしれないと思った。

彼女が駅で迷子になってはいけないと思って、15分くらい前に待ち合わせ場所についた。

改札に近づいていくと、真っ黒なコートに円柱の帽子を被ったコスプレ風の金髪女性が立っていて、まさかと思って目を凝らしてみたら…クラウディアだった。

「タナカさん、おはよう!」

「おはよう」

それまでとのギャップに驚きつつも、やっとの思いで挨拶だけは済ませたが、思わず頭の先から足の先まで彼女の衣装をしげしげと見つめてしまった。

多分ボクらが生まれる前にテレビでやっていたアニメで、ボクも再放送でしか見たことがない奴だ。

「凄いの、持ってるね」

「変ですか?」

「いや、似合ってるっていうか…、似合いすぎてるっていうか…」

あのアニメのこの役を実写でやるならこの娘しかいないだろうって思うくらいイメージにぴったりだった。

「へへ、うれしい!」

改札を通ったあと、彼女はそう言うとボクに腕組みをしてきて、街へと繰り出した。

彼女と歩いているとすれ違うほとんどの人が振り返ったり、露骨にボクたちを指さして、コソコソ話している。

"そりゃそうだよな…、振り返るよな…"

1人の子供なんか、

「写真撮らせてぇ」

と言って彼女の手を取ると、母親に写真を撮ってもらっていた。

どう見ても彼女とは不釣り合いなボクが一緒に並んで歩いているのも彼女を引き立てるのに拍車をかけたのかもしれない、なんて思いながら2人で街を彷徨った。

「クラウディア、なに食べる?」

散々オタクが集うショップを巡り、厳選に厳選を重ねて買い集めた荷物を少し持ってやりながら尋ねると、"お好み焼きが食べたい"という。


寿司でも天婦羅でも奢ってあげようと思って下調べをしてきたのに、お好み焼屋がどこにあるのか咄嗟に思いつかなかくて困った。

ボクが携帯を取り出して検索を始めようとすると、彼女は、

「コッチ」

と言い、スタスタとボクの前を歩き始めた。

自分の目的地は事前にしっかりと下調べしてあるようで、彼女について入ったビルのエレベーターに乗って、次に扉が開いたとき、某有名お好み焼き店が目の前に現れた。

「凄いね」

そう言うと彼女は少しだけ自慢げに、

「だって、ワタシ、オタクだもん」

と言った。

どうやら彼女の中でオタクはある種のブランド化されているらしい。

アキバ周辺の詳しさから見て、彼女のオタク志向は本気モードの筋金入りらしい。

"たぶんメニューを説明してあげる必要もないのだろうな"と思っていたら、果たしてその通りで、メニューを開く前に、

「ワタシ、豚玉」

と言った。

ボクも同じものを注文して、彼女に目を向けると彼女の青い目は真っ直ぐにボクを見つめていた。

何だか気恥ずかしくなったボクは、話題を探そうと頭をフルで回転させたが、出てきたのはありきたりな質問だった。

「クラウディアは日本に来て何が一番美味しいと思った?」

外国人はしょっちゅう聞かれる質問かな、とも思ったのだけれど、食事時の話題として他に思いつかなくて聞いてみた。

「うーん、いろいろあるけど、コンビニで売ってる食パンかな」

と意外な答えが返ってきた。

「コンビニのパンって、100円か200円ぐらいのヤツ?」

「そう、ヤツ」

ボクは彼女の答えに思わず笑ってしまった。

「イタリアのパンとは違うの?」

「うん、イタリアのはもっと硬くて塩気とか甘みが少ないの」

彼女は、テレビアニメで会話を覚えたらしく、話をしている分にはかなりナチュラルで、表現力もそれなりに豊かだ。

目を瞑って聞いていたら、外国人だとは気付かないかもしれない。

「午後はどうする?」

「どうする?」

「どこか行きたいとこ、あーりますかぁ?」

こっちが変な日本語になってしまいそうだ。

彼女はクスッと笑って、

「次は、中野ブロードウェイに行こうと思ってるの」

"うわっ、また、ディープなところを突いてくるなぁ"

ボクは、彼女の下調べと準備の周到さに舌を巻いて感心しながら、案内してやることにした。

もっとも、ボクが役に立ったのは目的地までどうやって最短で行くかということだけで、着いてみたら彼女の方が詳しかった。

彼女はここでも懐かしのアニメのポスターなどをどっさり買い込むと、駅前まで戻ってきたところで回転焼きを2つ買って1つをボクにくれた。

「この粒あんがいいよね」

回転焼きを一口食べて発した彼女の言葉にボクは脱帽した。

"コイツ、最近の日本の若者よりも日本人らしいかもしれない…"

「タナカさん、今日はありがと」

ターミナル駅に着くと、彼女はそう言ってボクの両頬にチュッチュッと向こう式の挨拶をしてくれた。

"うわっ"

慣れないボクは、それだけでなんだかドキドキしてしまった。

それから彼女はボクに預けていた荷物を受け取って、胸の前で小さく手を振ると声に出さずに口の動きだけで"チャオチャオ"と言って改札を通るとホテルへと帰って行った。

"少し変わっているけど、おもしろい娘だったなぁ…、それに何といっても綺麗だし…"

晩飯を済ませようと立ち寄った近所の定食屋で焼き魚をつつきながら彼女のことを思い出していると、チュッチュッが思い出されて一人で赤くなっていた。

すると、そこへメールが届いた。

彼女からだった。

『きょうは、おせわになりました。もし、よろしければ、おれいをしたいので、あした、ごはんをいっしょにいかがですか?』

全部ローマ字だったけど、ちゃんと日本語でのメッセージだった。

『よろこんで。よかったら、あしたもごあんないしますよ』

読むのはきっと漢字でも大丈夫だろうと思ったが、一応平仮名で返信しておいた。

『ほんとに、いいのですか。かのじょにしかられませんか』

"外国の人はストレートだなぁ"

そんな風に思ったが、正直に、

『かのじょはいないので、だいじょうぶです』

と返信すると、次には

『では、おねがいします』

と返ってきた。

そんなやり取りをして、ボクたちは翌日の待ち合わせをした。

前日のメールのやり取りで、日本らしいところが見たいと言っていたので、それらしいところを幾つか見繕って案内した。

秋葉原や中野を歩いていたときはアニメや漫画の話ばかりだったのに、その日は皇族について聞かれたり、日本史の細かい話や日本庭園についての質問が出てきたので、自分の不勉強が恥ずかしかった。

極めつけは茶室に入った時だった。

うっかり畳のヘリを踏んで歩くと、

「タナカさん、畳の黒いトコ、踏まない方がいいですよ」

と注意されてしまった。

"知らないわけじゃないけど、最近は和室も少なくなったし…"と思ったけど、"言い訳にしか聞こえないな"とひとりごちて、

「クラウディアは本当によく勉強してるんだね」

と素直に感心してみせると、少しはにかんで見せて、"いえ、いえ"と顔の前で手を横に左右に振って見せた。

彼女は知識だけではなく、動作まで日本人っぽい。

ここでも"わびさび"についての質問を受けて、答えられずに詰まってしまった。

「クラウディアは彼氏とかいないの?」

少し話題を変えようと聞いてみると、

「日本人の男の人、ガイジンが苦手みたい…」

と応えるので、

「へぇ、クラウディアは日本人がいいの?」

と聞き返すと、

「うん、サムライ、大好き」

なんて笑っていたので、冗談めかして、

「ボク、サムライじゃないけど、一応日本人だから立候補するよ」

と言ってみたら、

「ありがとう」

と言ってはぐらかされてしまった。

イエス、ノーをはっきり言わないところも日本人の真似をしているのかな…。

夕日が沈む頃、

「そろそろイタリア料理が恋しいんじゃないの」

と訊いてみると、ガード下の焼き鳥屋に行ってみたいと言う。

"どこまでディープな日本を堪能したいんだ…"

せっかくお洒落なお店を調べてきたのに、肩透かしを食った感じがしたが、本人が望むのならと、思いっきりディープなところへ案内した。

彼女は無難なモモ肉とかネギマになんか見向きもしないで、砂肝にレバー、ハツとかキンカンまで注文すると、美味しそうにパクパクと口に運んだ。

「おじさん、熱燗、もう一本頂戴!」

金髪の美人が焼き鳥屋で堂々と注文する様は、最初は異様な光景としてボクの目に映ったが、そのうちに風景に溶け込んできた。

ボクのそんな思いとは関係なく、彼女はお構いなしによく飲んでよく食べた。

「クラウディア、ちょっと飲みすぎじゃないの?」

ボクが注意をすると、

「西洋人は日本人よりアルコールを分解する酵素をたくさん持ってるのら…」

とか訳のわからないことを言って、半分呂律が回っていない。

「ほら、送っていくから帰ろう」

お会計を済ませた後、漸く彼女を立たせて、タクシーに押し込むと、彼女が泊まっているホテルへと車を走らせてもらった。


運転手さんが、ミラー越しに後ろを伺うので、

「そんなんじゃないですから」

と思わず言い訳をすると、運転手さんはバツが悪そうに視線を前の信号に向けた。

「クラウディア、何号室か覚えてる?」

何とかホテルのロビーに辿り着いてからそういうと、彼女は手持ちのバッグの中をゴソゴソと掻き回すと、キーを取り出した。

カードキーをひらひらさせながら、

「タナカさぁん、送りぃオオカミぃ…」

"おい、公衆の面前で何を言い出すんだ"

一体どこでそんな言葉を覚えるのだろうと感心しつつも、ボクは周りの目を気にしながら彼女をエレベーターに乗せて行き先ボタンを押して見送ろうとする。

扉が閉まる寸前に彼女が座り込むのが見えたので、慌てて閉まる扉に腕を差し込んで開くと一緒に乗り込んだ。

「ほら、クラウディア、そんな座り方したらパンツ丸見えだぞ」

「ん?タナカさん、ワタシのパンツ覗いたら、らめらよ…」

「バカ!誰も覗いてなんか…」

と言ったが、しっかり見えてしまった。

薄いブルーだった。

チンという音がして扉が開き、彼女の身体を支えて部屋に向かうと彼女の手から鍵を取ってドアを開けようとした。

でも、暗証番号と組み合わせないと開かないようになっていたので、

「クラウディア、暗証番号わかる?」

聞いてみると、

「わっ、タナカさん、夜這いはらめよ、夜這いは…」

と言い出すので、申し訳ないが彼女のバッグをごそごそ探させてもらって、ようやくフロントで渡されたのであろう暗証番号を書いた紙を見つけた。

やっとの思いでドアを開けて入ると邪な心がボクに囁いた。

"おい、チャンスだぞ"

でも、天使のような彼女の寝顔を見るとボクは何もできなかった。

それに、外人の奈良漬けみたいに酔いつぶれた彼女に悪さをして折角の思い出を台無しにしたくなかったので、ボクは彼女のコートだけ脱がせてベッドのシーツをめくると、彼女を寝かしつけて部屋を出た。

部屋はオートロックだったので、鍵の閉め忘れも心配ない。

ボクはエレベーターで階下に降りながら、メールした。

『鍵はベッド脇にのテーブルに置きました。フロントには7時半にモーニングコールを頼んでおきます。明朝、9時にオフィスで会いましょう』

"惜しかったなぁ"

本音がこみ上げてきて、残念に思う気持ちを必死に抑えながら、ボクは送信ボタンをおした。

電車に揺られながら、女々しく後悔し続けていると、メールの着信音がした。

彼女からのメールで、

『すえぜんくわぬはおとこのはじ』

と書いてあったので、ボクは思わず笑ってしまった。

一体どこでこんな日本語を習ったのかと思うと同時に、教えたヤツがなんとなく男であるような気がして、理不尽なジェラシーを感じていた。

翌朝、彼女は金色の髪をひっつめにして、すっきりした顔でオフィスに現れた。

その凛とした姿にボクは暫く見とれてしまった。

そんなボクを見かけると彼女はニッコリと微笑んで、胸の前で小さく手を振ってくれたけれど、ボクとの仕事は前の週で終わっていたので、彼女とはそれきりだった。

翌日も翌々日も彼女と話す機会はなかった。

何度もメールをしようと書きかけたけど、意気地がなくて出さずに消去してしまった。

もう一度会って話がしたかったが、結局食事にも誘えずにそのまま彼女の帰国の日を迎えた。

せめてコーヒーでも飲みながら話がしたくて、早めに出社したのにいつまで経っても彼女は現れない。

彼女と最後の打ち合わせをした部署に行って聞いてみると、午後一番のフライトなので、もう会社には来ないと言う。

目の前が真っ暗になった…。

でもそのことを聞いて、気がつくとボクは外出のフリをして彼女の泊まるホテルに向かっていた。

部屋に電話しようかロビーで迷っていると、彼女が大きなキャリーバッグを引いて、フロントへやってきた。

「クラウディア!」

思わずボクは声を掛けていた。

彼女は少し驚いた表情を見せたが、すぐにニッコリと微笑んでボクの方に近づくと、

「もう、会えないかと思ってました」

と言った。

ボクは何も言えなくて黙っていると、彼女が口を開いた。

「あれは社交辞令というやつですか?」

「えっ?」

「立候補の話」

「…社交辞令じゃないよ」

「では、どうして連絡をくれないのですか?嫌われたのかと思っていました…」

丁寧語でしゃべる彼女の声は何だか以前よりよそよそしかった。

「でも、何度も誘うと悪いと思って…」

彼女は、軽く溜め息を吐くと、

「女の私からは、言えないですよ」

と目を伏せながら呟くように言った。

「えっ?」

思わず聞き返すと、彼女は視線をボクに戻して、

「でも…、もし、少しでも本気なら…」

そう言って、システム手帳の1ページを丁寧に外すとイタリアの住所と連絡先を書いて渡してくれた。

「じゅあ、気をつけて…」

握手をしようと手を差し出すと彼女はボクの手を握った・・・かと思うと、グイッと自分の方に引き寄せてボクが前のめりになり、西洋式の挨拶で頬と頬を合わせるようにチュッチュッとしてくれた。

照れた僕は、

「クラウディア、日本人はそれ、慣れてないから下手すると誤解されるよ」

と言うと、

「知ってるよ。だから、タナカさんにしかしてないよ」

と言われた。

"えっ?それって…"

茫然として彼女をただ見つめていると、

「チャオ、カロ」

どういう意味か分からなかったけど、彼女はその一言を残して胸の前で小さく手を振ってタクシーに乗り込むと、空港行バスのターミナルへと向かっていった。

"少しでも本気ならって…、それにチュッチュッって…、どう解釈すればいいんだよ…。外人なんだから遠回しに言うなよ"

自分の意気地のなさを棚に上げてボクはひとりごちた。

それからは、寝ても覚めても彼女のことばかり考えるようになった。

仕事の話もあるので、メールでのやり取りしていたのだけど、当たり障りのない仕事関係の内容ばかりで、肝心な2人の関係に大きな進展はなかった。

それでもボクはどうしても彼女に会いたくて、夏のボーナスが出るのを見越してヨーロッパ行きの格安航空券を予約すると、彼女に連絡した。

乗り継ぎを挟んでの長い長い飛行機の旅だった。

ヨーロッパまでってこんなに時間が掛かるのだと、その時になって初めて実感した。

たどたどしい英語で何とか入国審査を終え、税関を通ると外で彼女が待っていてくれた。

「ホントに来てくれたんだね」

そう言うと彼女はボクの首に抱きついてきた。

"ちょっとちょっと、日本人はそういうの慣れてないんだから"

そう思ったけど、周りではキスしている人たちまでいたので、ボクは黙ってそっと彼女の背中に腕を回した。

空港ビルを出て駐車場に向かうと彼女の愛車が停まっていた。

軽自動車みたいな小さな小さなフィアットだった。

「タナカさん、ホントに来てくれたんだね」

彼女は改めてそう言うと、満面の笑み浮かべてボクを歓迎してくれた。

高速道路みたいな道をどんどん走って、街中に入った時、もうすっかり日は暮れていた。

小さな路地を入って、石畳の道路脇に車を停めると、車のドアを開いて彼女が言った。

「着いたよ」

どう見てもそこは住宅地の一角で、ホテルがありそうなところに見えない。

「えっ?ここがホテル?」

そう尋ねると、

「あ、タナカさんのホテル、キャンセルしておいたよ」


とさらっと言われた。

"…ということは…"と妄想が広がり始めると、

「そうだよ、ここワタシのうち」

と言うと、ニスを塗った木製の扉の鍵を開けてボクを建物に招き入れた。

建物の中は薄暗くて結構古い感じがして、エレベーターも金属の細長い板を組み合わせたアコーディオンみたいな手動式の扉で、乗り込むと虫かごの中にいるようだった。

やたらと遅いエレベーターから降りて、彼女の後に続くと、表札も何もないドアの前でガチャガチャと鍵を開けると

「どうぞ」

と言われて、彼女の後に続いて部屋に入った。

玄関口にはマットが敷いてあって、

「そこで靴を脱いでね」

と彼女に言われた。

フローリングの床が冷たくって、むくんでいたボクの足には心地よかった。

部屋の中は外のように古くはなく、改装が行き届いていてとてもきれいな部屋だった。

「何か飲む?」

と聞かれ、水をもらうと水道の水ではなくてミネラルウォーターを出してくれた。

「直ぐにご飯の用意をするから、テレビでも見て待ってて」

そう言われてテレビを点けてみたけど、何を言っているのかさっぱりわからない。

ザッピングをしていくと英語だろうと思われるチャンネルがあったのでそのままにしておいたけど、結局何を言っているのかはわからなかった。

手持無沙汰なので部屋の中を少しウロウロして見ていると、日本で買ったフィギュアに混じって聖母がキリストを抱く小さくて白っぽい置物があったり、アニメのポスターの中には聖母像が一緒に飾ってあったりした。

振り返ると彼女がボクの方を見ていて、目が合うと彼女は微笑んで、

「ご飯、できたよ」

と言った。

「!?」

食卓を見た僕は驚いた。

「ねぇ、これ、どうしたの?」

テーブルには、日本の一般家庭の食卓に並ぶ以上の立派な和食が並んでいた。

「日本の食材を売っているお店があって、今日買ってきたの」

「そうなんだ…」

旅行鞄から出しておいたお土産を渡したが、日本の食材を持って来ていたので少しバツが悪かったが、

「ありがとう。こういうのは手に入らないから助かる」

そう言ってくれたので、その言葉を信じることにした。

「ワタシタチ、ベッドは一緒でいいよね?」

箸でご飯を口に運びながら彼女はサラッと大胆なことを言った。

「いや、ボクはいいけど、クラウディアはそれでいいの?」

「ん?どういうこと?」

「いや、だから…、その…、一緒に寝ちゃって…」

「タナカさん、ワタシに何かする?」

「いや、そんなことない…と思うけど…」

「じゅあ、ワタシ、大丈夫」

"何かしちゃうよ"と答えておけば良かったと直ぐに後悔したが、言ってしまった以上は仕方がない。

「明日は街を案内してあげるね」

食事を終えると彼女はそう言って、シャワーの使い方を教えてくれた。

「お湯を溜めた方がいいんじゃない?」

そう気遣ってもらったけどボクはそれを固辞して、バスルームに入るとシャワーを浴び始めた。

機嫌よく温かいお湯を浴びていると、突然熱湯のように熱くなり、思わずボクが、

「アッチ!」

と声を上げると、心配した彼女が飛び込んできた。

「大丈夫?」

お湯の温度は徐々に戻って行ったが、彼女にはしっかり見られてしまった。

シャワーを出て、持参のパジャマに着替えて彼女のベッドで先に横にならせてもらっていると、長旅と夕食のお酒の所為でボクはそのまま眠り込んでしまった。

朝の喧騒が窓の外から聞こえてきて、目を覚ますと彼女がボクに抱き着くようにして一緒のブランケットに包まっていた。

途端にボクの胸はドキドキし始めたけど、もう子供ではないのでそっと彼女の肩を抱いて抱きしめようと腕を回すと、

「!!」

彼女は一糸纏わぬ姿で眠っていた。

"これで、「何かする?」はないだろう…"

そう思いながら彼女を抱きしめると、彼女の細くて長い指がボクの股間に伸びてきて大きく膨らんだモノをそっと撫でた。

「タナカさん、オハヨウ」

「おはよう」

「よく眠れた?」

「うん、でもクラウディアはどうして服着てないの?」

「ワタシ、寝るときはいつもハダカだよ」

そうだったのか…、でもボクの欲望の塊に火がついてしまったことは彼女に知られてしまった。

ボクがそっと顔を彼女の顔に近づけると彼女は黙ってボクのキスを受け止めてくれた。

唇を話すと彼女は潤んだ目でボクを見つめると、

「ずっと待ってたよ」

そう言ってくれた。

ボクたちは抱き合い、お互いの身体にもキスをして、やがて1つになった。

蕩けるような優しいセックスで、ボクは彼女の中で果ててしまいそうになったけど、何とか彼女のお腹の上に出すのに間に合った。

ボクは彼女とずっと抱き合っていたかったけれど、彼女に促されて服に着替えるとボクたちは彼女のフィアットに揺られて街に出た。

あんな教会を見たのは初めてだった。

スケールの大きさ、彫刻の多さ…、荘厳と言うか、何というか…、素人のボクにはどうやってあの感動を伝えたらいいのかわからないけれど、とにかく凄くて圧倒された。

教会の裏に回ってエレベーターと階段で教会の屋上に登ると昼を迎える前の柔らかい日差しがボクたちを包んだ。

「ねぇ、クラウディア」

ボクは彼女と手を繋いで歩きながら思い切って言った。

「なに?」

「ボクとお付き合いしてもらえないかな」

すると彼女は立ち止まり、ボクの顔を覗き込みながら言った。

「え?ワタシタチ、まだ付き合ってなかったの?」

「いや、その、一応きちんと伝えておこうと思ってさ…」

「えっ、何?タナカさん、付き合ってない人とエッチしたんですか?」

"うわ、ヘンな話になってきちゃった"

ボクが慌ててあわあわしていると、彼女は悪戯っぽい目をして一言、

「スケルツォ」

と言った。

「え?なに?」

ボクが不安そうな目を向けると彼女は、今度は笑って、

「ジョーダンって言ったの。直ぐアワアワするんだから…。嬉しいよ、タナカさん!」

と言うとボクの首に抱きついてきた。

"おいおい、からかうなよ…"

そう思ったけどボクは何も言わずに彼女の華奢な背中に手をやると強く抱きしめた。

それからの彼女はびっくりするくらいご機嫌で、教会を出てからボクたちは再び手を繋ぎ、高い屋根の十字路になったアーケードを通って石畳の通りに出た。

そこからブラブラ歩いては立ち飲みのコーヒーを飲んだり、揚げピザみたいなものを買っては、ケタケタと笑いながら食べたりした。

「これがテアトロだよ」

と劇場の名前を言われた時も、

「映画館?」

と聞き返すと、外国人とは思えないほどナチュラルに、

「それ、ウケるんですけどぉ」

と日本の女子高生みたいな口調で言った。

また、町のはずれの小さな建物の中で、長テーブルに何人ものロンゲやハゲのおっさんたちが並んで飯を食ってる絵を見せてもらった時、

「こっちに背中を向けて座る人がいないのは、不自然だよね」


と率直な感想を述べると、彼女は腹を抱えて笑い、帰りの運転に支障が出そうになるほどだった。

夕方になって彼女のアパートに戻ってくる頃には、彼女はしっかりとボクの左腕に抱きつくように腕組みをしていた。

アパートに着くと彼女は夕飯の支度を始め、真っ白なチーズと少し酸味のあるトマトの前菜にサラダとスパゲッティを作ってくれた。

「クラウディア、これ、おいしいよ!お料理、ホントに上手なんだね」

そう言って褒めると彼女は照れ臭そうに少しはにかんで見せた。

食事の後、トロッと甘口の食後酒を啜るようにして飲みながら、彼女と話をした。

「タナカさん、ずっと待ってたんだよ」

「ありがとう」

「でも、来てくれるって聞いたとき、ホントに嬉しかった」

「ボクも一緒にお好み焼きを食べた時から、ずっとクラウディアのこと考えていた」

「うそ、ホテルの部屋にまで入ってきておいて何もしなかったくせに」

「だって、クラウディアの気持ちが分からなかったし、ヘンなことして日本での思い出が嫌なものになったら申し訳ないと思ったから…」

彼女はボクの手から小さくて細長いガラスのコップを取り上げると、椅子に座ったままのボクの膝に向かい合ったまま跨ってきた。

そしてボクの首に腕を回して、

「ヘンなことって?」

とボクの目を見ながら悪戯っぽく聞いた。

「こんなこと・・・」

ボクも彼女に微笑み返しておっぱいを軽くつついて見せた後、ボクたちは唇を重ねた。

朝は夢中だったのでよくわからなかったけど、彼女のお腹には全く贅肉がついていなかった。

毎日パスタとか食べていて、あのウエストの細さとスタイルは脅威だ。

ボクはゆっくりと彼女が着ているものを一枚一枚丁寧に脱がして行き、最後の一枚を優しく剥ぎ取ると自分も全裸になって覆いかぶさった。

細くて柔らかい猫毛の金色の髪、大きくはないけれどモデルさんのように形の良いおっぱい。

彼女に膝を立てさせて、ゆっくり股間に身体を割り込ませると、

「恥ずかしいよぉ」

そう言って、彼女は両手で顔を覆うようにした。

陰毛は薄くて、少し指で亀裂を開き、小ぶりの突起を舌で優しく愛撫すると、

「あう・・・」

と言って、彼女は身体を震わせた。

日本から持ってきたゴムを付けて、彼女の中にゆっくりと入っていった。

果てた時、ボクは彼女のためなら何でもできる気がした。

1週間足らずのボクの滞在期間は瞬く間に過ぎ、ボクと彼女は毎日のように愛し合った。

「こんな気持ちになったの、タナカさんだけだよ」

そう言って、彼女はボクの股間に顔を埋め、舌を伸ばしてボクを舐め上げると薄い唇を大きく開いてボクを呑み込んだ。

何度も果てそうになりながらも彼女の愛撫を受けていたのだけど、何度目かに喉の奥まで吸い込まれた時、ボクは"あぁ・・・"と声を漏らしてしまい、彼女の口を汚してしまった。

彼女の喉が動いてボクの精子が呑み込まれるのを見たとき、ボクは激しい愛おしさを感じて彼女の細い身体を抱きしめた。

ボクの肩に頭を持たれかけさせながら彼女は恥ずかしそうに言った。

「タナカさん以外にあんなことしたことないからね」

「うん、ありがとう」

「信じてくれる?」

彼女は頭を少し上げてボクの顔を覗きながら聞いた。

「うん、信じる」

「ありがと…」

彼女は、やっと安堵の表情を浮かべるとボクの胸に片手を置いてボクに抱きつくように眠りについた。

彼女がボクの両親に会いに来た時、彼女は着物を身に纏い、風呂敷包みを手にやってきた。

両親は金髪のお嫁さんに難色を示していたが、着いてすぐに"お手伝いします"と言って着物の袖に襷をかけて、母親と台所に立ってからは一気に株が上がった。

彼女は糠床にも平気で手を突っ込んで掻き回して見せた。

「クラウディアさんったらねぇ…」

お袋はいつもこの出だしで彼女の話をしては、褒めちぎる。

そこらの若い日本人のお嬢さんより遥かに日本的な立ち居振る舞いを見て、お袋はすっかり彼女のことを気に入ってしまったのだ。

彼女も、

「お母さん、お母さん」

と言って素直に甘えるものだから、お袋がご機嫌な分、親父が少し寂しそうだった。

後から聞いてみると、古今東西を問わず、イタリアでも特に彼女が生まれ育った南部の田舎の方では、良くも悪くも古風なのだそうだ。

そう言えば着物を着て歩いている時、彼女はいつも2,3歩ボクの後をついて歩いてきていた。

普段は直ぐにボクの腕にしがみついてきて、小さなおっぱいをボクの二の腕に押し付けてくるのに。

会社の計らいでボクたちは今彼女の街で暮らしているが、彼女は早くボクの両親と同居することを望んでいる。

日本好きの金髪で青い目の嫁さんは、実はちょっぴりオタクな大和撫子だった。

■続き
彼女のオタクぶりはアニメのコスプレやポスターだけに留まらなかった。

ボクの両親に挨拶するために再び日本にやってきた時、メイド喫茶の衣装を気に入ってしまって、それを買いたいと言っては一日中街を彷徨った。

週末にフィアンセを放っておくわけにもいかなくて、ボクは彼女に連れ回されたけど、これが結構大変だった。

メイドさんの衣装は、日本人の女の子が着ると可愛らしくなるようにできていて、彼女のように青い目の金髪が着るとアニメの世界になってしまう。

「それはそれで可愛いよ」

本気でそう言ってやったのだけれど、彼女の拘りはそれを許さない。

コスプレショップを何軒もハシゴしてようやく気に入ったものを見つけて買い求めた頃にはとうにお昼を回っていた。

一旦ホテルの戻って荷物を置こうということになって部屋に戻って休んでいたら、彼女が早速買ったばかりのメイド服を着てボクの目の前に現れた。

機嫌よくボクの前でくるりと回って見せる彼女。

"か、可愛い…、似合いすぎている…"

ボクはその時初めて巷で使われている"萌え"の意味を実感した。

ボクは思わず興奮して彼女に抱きついてキスをすると、彼女も舌を絡めてきた。

「タナカさん、興奮する?」

ボクは答える代わりに彼女のおっぱいに手を当てながらスカートの中に手を入れて、下着の上から彼女の敏感なところを探り当てた。

「タナカさんのエッチ!」

少し上目遣いになりながらそう言ったものの、彼女の目はボクを誘っていた。

ボクは下半身だけ裸になって、ソファに腰を下ろすと、彼女も下着を脱いで向かい合ってボクの膝の上に跨ると、ボクの怒張したものをそっと掴んで腰を下ろした。

ボクのモノはそのままメイド姿の彼女の中に入ってしまった。

いつにも増して彼女の中は熱かった。

「あふっ」

彼女はボクの肩に手を掛けながら腰を上下させ、眉間に皺を寄せて高まってきた。

メイド姿の彼女があんまり乱れるのでボクは直ぐに興奮が最高潮に達して、中で出そうになってしまった。

やっとの思いでボクが彼女の動きを止めて彼女の中から引き抜くと、彼女は恨めしそうに「イヤン!」と言った。

手早くコンドームを装着して再び彼女の中に入っていくと、今度は恥骨を擦り付けるようにして腰を前後に動かし始めた。

どんどん彼女の動きが早くなって、

「タナカさん、もうダメ!」

小さく声を発すると、彼女は身体を仰け反らせて、絶頂を迎えた。

快感に震えながら彼女はボクの首に腕を回して抱き付くと、震えるように大きな呼吸をしながら身体を支えていた。

やがて息が少し落ち着いてくると彼女は閉じていた目をゆっくり開いて、

「タナカさん、好きだよ」

と言って微笑んでみせた。

ボクたちはベッドに移って微睡み、目を覚ますと夕方になっていた。

エッチの後、ランチも食べずに眠ってしまった。

「今晩、何を食べる?」

ボクはもうお洒落なレストランを下調べするのは諦めていた。

「行きたいところある?」

聞いてみると、彼女は当然のように頷いた。

「どこいくの?」

出かける前に聞いてみたけれど、

「ナイショ」

そう言って、彼女は教えてくれなかった。

「じゃあ、どっちへ向かえばいいの?」

そう尋ねると、彼女は悪戯っぽい目をして、


「ギンザ」

と答えた。

ホテルを出て地下鉄の駅に向かって歩き出そうとすると、彼女はボクの肘を引っ張って、

「コッチ」

と言って、反対方向に歩き出した。

「銀座ならこっちの方が近いよ」

そう言ったのだけど、彼女は、

「イイノ、イイノ」

と言って、ボクを連れて山手線に乗り込んだ。

新橋への方向とも違う。

「ひょっとして、銀座って"お年寄りの銀座"のことを言ってる?」

尋ねると彼女は、

「セイカーイ!」

と言ってボク頭を撫でで見せた。

"この女はどこまでディープなんだ"

ボクは改めて彼女の日本好きに舌を巻いたが、これはその日の序章に過ぎなかった。

刺抜き地蔵を横目に奥まった路地に入っていって、古びた店構えの老舗の前に立つとそこは…。

「タナカさん、食べたことある?」

「いや、日本人でもこれはダメな人、多いと思うよ」

「そうなの?お肌にいいってネットで見たよ」

彼女に連れて来られたのは、マル鍋を出しているお店だった。

ボクは彼女に腕を引っ張られて暖簾を潜ると、上品な女将らしき人が出てきて、

「いらっしゃいませ、ご予約のお客さまですか?」

と尋ねると、

「予約のタナカです」

と彼女が答えた。

"おいおい、まだタナカじゃないだろう…"

そう思ったけど、ちょっと嬉しかったので黙っていると、

「ご予約のお電話をいただいたお嬢さんですか?」

と女将は尋ねた。

彼女は黙って頷いている。

「どうかしましたか?」

心配になって尋ねると、

「お声からは金髪のお嬢さんだとは想像もつきませんで…」

と言われて、途端に彼女は気を良くしていた。

お座敷に通されて向かい合って座ると、

「芋焼酎のお湯割を二つ」

と彼女は日本通ぶりをワザと披露して見せた。

目を丸くして見せる女将もちょっと芝居がかっている。

いくらなんでも、外国人が食べにくるのは初めてではないはずだ。

「クラウディア、調子に乗って飲んだら明日大変だよ」

ボクが真面目に心配してみせると、彼女はぺロッと舌を出して見せて、

「はぁい」

と言って首をすくめて見せた。

典型的な外国人の姿をしているくせに、仕草だけはアニメの中で見る日本人っぽいので、思わず笑ってしまった。

それでも女将にまんまと乗せられた彼女は一番高い鍋のコースを頼んでしまって、ボクは急に財布の中身が心配になった。

女将が下がる際に"カードも使えますよ"とボクにだけ小声で耳打ちしてくれたので、やっと安心して料理を楽しむ気になれた。

出てきた鍋には、主役の食材のパーツがぶつ切りになって入っていて、彼女は頭の部分を箸で摘みあげると、

「タナカさんの方がおっきいね」

と言って笑って見せたので、ボクも笑ってしまった。

ちょっと下品だけど、彼女とそんな冗談を言い合える仲になれるなんて、思ってもいなかった。

"コラーゲン、コラーゲン"と言って、彼女はエンペラの部分もしゃぶりつくすと、漸くボクたちは店を後にした。

「美味しかったねぇ」

ボクに寄りかかりながら彼女は言っていたけど、正直ボクはちょっと気持ち悪かった。

「お鍋の後のおじやって、やわらかいリゾットみたいでサイコー!」

彼女はご機嫌だった。

"そうだよな、彼女がご機嫌なら文句ないよな"

そう思って、家路についた。

少し千鳥足の彼女の身体を支えながらホテルに帰り着いて部屋に入ると、彼女がボクの首に抱きついてきてキスをせがんだので、そのままベッドに倒れこんでしまった。

彼女の服を脱がせて、ボクも裸になってベッドにもぐりこむと、彼女の叢に顔を埋めた。

「ハゥ……」

彼女の喘ぎ声が上がって、ボクは丹念に舌で亀裂をなぞった。

「あ、あ、あ…、あぅ、あぅ、アゥ!」

彼女は身体を小刻みに震わせると直ぐに絶頂を迎えた。

あまり余韻を楽しむこともなく、彼女は今度はボクの股間に顔を埋めるとボクを口一杯に頬張った。

ボクのモノは驚くほど硬く屹立し、脈打って彼女の中に入っていった。

彼女にキスをしながら薄い唇を割って舌を差し込むと彼女はボクの舌を吸い始めた。

「タナカさん、凄いよ」

その日のボクはいつまでも果てることなく、彼女の中で暴れ続け、彼女はボクの腕の中で何度もエクスタシーを迎えた。

そして、とうとう彼女の方が音を上げた。

「タナカさん、もうダメ…、おかしくなっちゃう…」

そう言って彼女は、ボクに抱きつくと静かに目を閉じて寝息を立て始めた。

そんな彼女が愛しくて可愛くて、ボクは彼女の肩を抱きながら眠りについた。

痛いほどの勃起を感じて明け方にボクは目を覚ました。

精力剤の固まりみたいのものを食したのだから無理もないが、あんな屹立は10代の頃以来だった。

安らかに眠る彼女には悪いと思ったが、ボクはどうしても我慢できなくて、ボクに背を向けて眠っている彼女の身体を仰向けにさせて脚を割って入ると、そっと脚を抱えて挿入してしまった。

彼女は直ぐに目を覚まして、

「もう、ダメだよ…」

と小さな声で言ったが、ボクは彼女に入ったまま華奢な身体を抱きしめた。

その時ボクたちはとても不思議な体験をした。

彼女の中に納まっているだけでボクはとても幸せで、ずっと彼女に覆い被さって抱きしめたまま動かなかったのにボクのモノは萎えることがなかった。

30分もすると彼女がボクの下でプルプルと身体を震わせ始めた。

「タナカさん、これ、何?」

「どうしたの?」

「ワタシの中、アツイ」

見ると彼女の顔は紅潮し、乳首がコリコリに勃っていた。

そっと乳首を挟むようにして刺激すると彼女は身体をくねらせ始めた。

彼女は身体のどこを触られても感じるようで、強く抱きしめながら舌を絡めて吸うと、

「んーっ!」

と言いながら身体を痙攣させた。

「タナカさん、もう我慢できない…」

ボクが少し腰を動かすと、彼女は"うぉう"と身体を震わせた。

髪を撫ででやるだけで彼女は更に身体を震わせ始めた。

少しずつ腰の動きを早くしていくと、彼女の中はそれまでに感じたことがないほどに収縮してボクを締め付けた。

「あっぐ、あっぐ、アグゥ!」

それまでに見たこともないほど彼女悶え、喘いで、ボクは彼女の硬く尖った乳首を舌で転がして、おっぱいにも手を這わせて揉みあげながら腰を振ると、彼女は絶頂を迎え、同時にボクも中で放出した。

ものすごい快感だった。

「クラウディア、中でイっちゃった」

耳元に口を近づけて小声で囁くと、

「ワタシはいいよ」


と言って、再び眠りに落ちていった。

シャワーの音で目を覚ますと濡れた金髪をタオルで拭きながら彼女がバスルームから出てきた。

「タナカさん、オハヨウ」

彼女はボクにチュッとキスをすると上機嫌で身支度を整え始めた。

ボクの正面に立ってネクタイを整えてくれながら、彼女は少し顔を赤らめて、

「タナカさん、昨日は凄かったよ」

と言ってくれて、

「クラウディアの中もすごく動いてた」

と言って見つめ合うと、彼女は自分の平らなお腹を撫でながら言った。

「タナカさんの赤チャン、できてたらいいな」

そう言われてボクは彼女の細い肩を引き寄せると抱きしめた。

後にも先にもあんな素敵なエッチは一度きりだった。

彼女のことは"死んでも守る"と思わせるようなセックスで、彼女が僕に向ける目も同じように思ってくれていることを物語っていた。

「シャツにお化粧がついちゃうよ」

彼女はボクから身体を離そうとしたが、

「クラウディアのお化粧だから大丈夫でしょ」

そう言ってボクは一層強く、彼女を抱きしめた。

「ティ・アーモ・モルト」

「ボクも愛してるよ」

ボクたちは再び唇を重ねた。